ミナセ探訪
ミナセ探訪がスタートしました
2024年7月30日
瑠璃光院
#1.FIVE WINDOWSの庭園
2024年8月16日
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#0.スイス人が熱く語る時計

ミナセという名前を聞いたのはスイスを旅していたときでした。古い街並みの中を連結されたトラムの長い車両が進んでいくのが楽しくてジュネーブを訪れた時はいつも移動手段にトラムを選ぶのですが、その車内で二人のスイス人紳士が「ハンドメイド、ジャパン、ミナセウォッチ」について熱く語っていました。どうやらジュネーブの時計好きが集まる専門店でミナセを眺めてきた帰りのようでした。最初は、日本の有名な時計メーカーが発表したコレクションかなと思ったのですが、それにしては「これまで見たことがない」「日本刀のようだ」とずいぶん熱く語っていました。

次に名前を聞いたのは数年後、日本の秋田でした。地元のテレビ番組を観ていると、熱い湯気がもうもうと立ち上る渓谷の映像が流れ、そこから山奥へ行った皆瀬という場所で世界的な時計を製造するファクトリーのことを紹介していました。「皆瀬って、あのときスイス人が話していた時計かな?」地図を見ると、秋田市内から車で行けない距離ではありません。思いきっで電話してみると「少しだけならご案内します」との返事。ナビを頼りに車を走らせ、民家や田んぼがなくなり、針葉樹の森を抜けた先にファクトリーが建っていました。

誠実そうな工場長に案内されてパーツ製造の現場を眺めていると、これまで見たこともない複雑な形状をした部品ばかりです。スイス時計のファクトリーは何度も訪れてきた経験はありましたが、精巧な組み立てパズルのような部品を切削し、磨いている光景を見るのは初めて。「すべてハンドメイドで磨いています」「すごく大変じゃないですか?」「大変です」「そうですよね」…。すごいところに来てしまった。なぜ、いままで知らなかったのだろう。日本のクラフトといえば静謐なイメージがあるのに、ミナセは精巧さとパッションが混ざり合っています。なぜ、こんな時計をつくろうとしたのか話を聞くほど秘密を解明したくなりました。

その日の夜、名物のセリ鍋に誘っていただき、偶然にもスイス人の時計カメラマン2人も一緒でした。彼らは、ヨーロッパの会社に頼まれてミナセのファクトリーや時計の撮影にきているそうです。日本人が撮影のためにスイスへ出向くことはあっても、スイス人が日本に時計を撮影に来るなんていう話は一度も聞いたことがありません。率直に「ミナセってどう思う?」と聞くと、「仕事として頼まれたことがきっかけだけど、商業写真じゃなくて自分たちのアート作品を撮っているつもり。日本人は仏像にしても見えない細部まで綺麗に仕上げるでしょう。ミナセの輝きは、日本の精神性から生まれてくるものだと思う。今回は二度目の日本かな。時計も美しいけれど、風景も美しいから」と目を輝かせていました。日本人の精神性を褒められるのは嬉しくなります。スイス人が創らない時計だけど、スイス人が熱く語る時計。ミナセに込められた想いや技術をひとつひとつ探ってみたくなったのです。

ファクトリーライターのK.カワカミ氏による、こだわり発見レポート「ミナセ探訪」。
時計業界を熟知した鋭い視点から、ミナセの価値に迫ります。

ライター:K.カワカミ
ファクトリー探検ライターとして、国内外のモノづくりを取材。時計、電気製品、靴、ファッション、建築、食品、菓子、伝統工藝など、こだわりの作り手のもとを訪れる。