“HODINKEE”でMINASEが紹介されました
2025年1月11日
“HODINKEE”でMINASEが紹介されました
2025年1月11日

#7.アサギマダラ

能登へ向かう海岸線を眺めながら、「桃山時代に作られたお椀は、ゆるやかで安定感のある形をしている」という目利きの言葉を思いだしていました。不安定な乱世ほど、平和を願う作り手の心の動きが形や姿に現れるそうです。地震と洪水、年に2度も大きな災害に見舞われた能登では、今、輪島塗の職人はどんな思いで筆を動かしているのか、その眼差しと作品を目に焼き付けておきたい。復興という言葉の重みを長い時間軸の中で見つめたいと考えました。輪島の蒔絵師である箱瀬淳一さんが、MINASEの漆文字盤を制作中という話を聞きつけ、作業場を訪れたところ、ちょうど白い蝶の細工をしているところでした。
ウズラの卵の薄い殻を尖った木の棒で細かく砕き、1mmに満たないかけらの形を選んで羽の紋様に載せています。漆の原液は飴色の色をしているため、純白に近い白を出すのは技術的に難しく、古来より輪島ではウズラの卵殻を砕いて高貴な白を描いてきたのだとか。「輪島の歴史の中で漆を塗った卵殻が退色したという前例がないから技法として安心できる。後世に残っていくものを作る人間として安易なことはしない。」その言葉に輪島塗が積み重ねてきた時の長さを感じました。MINASEから新しい漆文字盤の制作を依頼され、箱瀬さんが選んだ2種類のモチーフの1つがアサギマダラという白い羽をもつ蝶です。アサギマダラは、日本から海を渡り1500km移動するという報告があり、日本と海外を行き来する神秘的な蝶です。
箱瀬さんの作品は、パリのヴァンドーム広場に店を構えるジュエラーからも高く評価されていますが、できることなら日本発のブランドと共に世界に羽ばたく作品をつくりたいと考えていたときにMINASEと出会い、文字盤製作に協力しようと思ったそうです。箱瀬さんにとってアサギマダラは、日本の伝統工芸の素晴らしさを世界に伝えるメッセンジャーであり、その作品がどのような歴史や文化や風景の中から生まれてくるものなのか、人々の興味を能登に回帰させる象徴なのかもしれません。能登が完全に復興を遂げるには長い時間がかかります、不安定な状況が続く中でも、職人の誇りと情熱を絶やすことなく。100年後の人が眺めても美しいと思えるものを黙々とつくりつづる。日本のものづくりの根底に触れたような気がします。

ファクトリーライターのK.カワカミ氏による、こだわり発見レポート「ミナセ探訪」。
時計業界を熟知した鋭い視点から、ミナセの価値に迫ります。

ライター:K.カワカミ
ファクトリー探検ライターとして、国内外のモノづくりを取材。時計、電気製品、靴、ファッション、建築、食品、菓子、伝統工藝など、こだわりの作り手のもとを訪れる。