運命の出会い
MINASEのHiZシリーズからHORIZONとWINDOWSの2モデルが発表されたのは2011年のこと。常識を覆すケース構造はどのような着想から誕生したのか、デザイナーの山本博邦さんに開発前夜の話を聞くことができました。 MINASEの鈴木社長と山本さんとの出会いは2007年まで遡ります。当時、MINASEは、伝説のモデルと呼ばれるマスタークラフトのシリーズを発表し、その徹底した作り込みは時計コレクターの垂涎の的となっていました。しかし、鈴木社長はコレクションの幅を拡げるために若い世代の感性に訴えかける斬新なモデルを開発したいと考えていたのです。独創的なモデルを生み出せるデザイナーを探し続けるなかで、レディスウォッチデザイナーの小笠原さんから紹介されたのがパートナーの山本さんでした。「誰も見たことがない時計をデザインしてほしい」。鈴木社長の想いを受けとめた山本さんは、時計の基本設計からはみ出したものを創りたいと考えたそうです。
時計の基本設計には、リューズ穴の位置、メカニズムの収まり、裏蓋の規格など、ベースとなる規格があります。その既成概念を飛び越えた先にある未知なるデザイン。それを追求するために山本さんは鈴木社長と一緒にMINASE の製造現場がある皆瀬工場に向かいます。そのとき目にしたのはケースの面を丹念に研磨する技術者の技と情熱でした。「この製造ラインであれば、大量生産という制約に縛られず、革新的なデザインを追求できる」そう確信した山本さんは、皆瀬工場の切削や研磨の技術者との関係性を築くために「デザインとは何か?」という講義を行なったと言います。斬新なデザインを描くことができても、それを製造可能にする技術者がいなければ真に新しいものは生まれません。他社にはないMINASEの独自技術を訴求できるデザインを創り出したい。2人はすぐさま意気投合しました。この運命的な出会いがなければ、時計の歴史における異端とも言うべきHORIZONとWINDOWSは誕生しなかったのです。
ファクトリーライターのK.カワカミ氏による、こだわり発見レポート「ミナセ探訪」。
時計業界を熟知した鋭い視点から、ミナセの価値に迫ります。
- ライター:K.カワカミ
ファクトリー探検ライターとして、国内外のモノづくりを取材。時計、電気製品、靴、ファッション、建築、食品、菓子、伝統工藝など、こだわりの作り手のもとを訪れる。