高屋永遠さんという美術家の方とアトリエでお会いするので一緒に行きませんか?
鈴木社長からのお誘いに思わず飛びつきました。美術家のアトリエを訪れるのは、職人の工房を訪れるのとは違う気分です。インスピレーションが降りてくる空間とは、どんな感じなのだろう。一軒家のアトリエの扉を開けると、白くて明るい空間の中にいくつかの作品がかけられ、壺のようなものに大きく長い筆がたくさん入っています。
永遠さんは自身の創作の原点として、小さな子どものころの話をしてくれました。ティッシュの紙を宙に放り投げ、ふわふわと揺れながら光や風と溶け合って変化をずっと眺めているのが好きだったそうです。生まれながらにして美術家なのだと感じましたが、永遠さんはロンドン芸術大学、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで学ばれ、自分の内にある世界をずっと追求してこられました。なにか現象が生まれる前の時間を表現したい。そんな永遠さんの言葉がアトリエの空気感を通してこちらにも感覚的に伝わってきます。
「MINASEとして、アーティスト文字盤という発想は元々無かったけど、永遠さんとお話ししているうちに宇宙観のようなものに包まれ、また色材に対する強いこだわりのお話を聞いて、文字盤に直接描いていただけませんか?とついお願いをしてしまったのです」と鈴木社長が言っていた事が理解できました。突拍子もない申し出に驚いたものの、永遠さん自身は嬉しかったそうです。
時を刻む装置と作品が一体となり、人と共に移動しながら、さまざまな光や自然や季節と出会い、未知なる現象が生まれる。文字盤、時計、まわりにある自然現象、さらには時計を眺める人の心の動き、それらすべてがアートそのものだという永遠さんの話にこちらも心が引き込まれました。永遠さんは、パール材を練り上げて自分で絵具をつくります。その絵具を用いて、文字盤の金属板に手描きされた世界に1つのアート作品としての価値、アートそのものを外に連れ出して刻々と変化する現象を眺めながら想像力をかきたてる価値。MINASEのJAPAN ART COLLECTIONの新たな可能性に出会えたような気がしました。
ファクトリーライターのK.カワカミ氏による、こだわり発見レポート「ミナセ探訪」。
時計業界を熟知した鋭い視点から、ミナセの価値に迫ります。
- ライター:K.カワカミ
ファクトリー探検ライターとして、国内外のモノづくりを取材。時計、電気製品、靴、ファッション、建築、食品、菓子、伝統工藝など、こだわりの作り手のもとを訪れる。