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#11.山本デザイナーに聴く .3

FIVE WINDOWS MID

残光のWINDOWS

東京の表参道のカフェに現れたデザイナーの山本博邦さんは、黒いスーツに黒いシャツというシックなファッションでした。HiZシリーズのすべてをデザインしてきた彼が、MINASEのどのモデルを腕にしているのか。袖口を眺めると漆黒のFIVE WINDOWSでした。カフェ店内の照明を受けて艶消しのブラックと金属の輝きが不思議な陰影を創り出しています。デザイナーにとって自らの設計思想をもっとも具現化したモデルなのでしょう。「HiZシリーズのプランを描くときに私が大切にしたのは日本人の繊細な美意識でした。日本の美には、シンプルで凛とした美しさだけでなく、立体的な空間の美しさがあることを表現しようと考えました。WINDOWSで追求したのは光に照らしだされる立体感です。

雪見障子

暗がりの中で月明かりを楽しむという日本固有の美意識を、時計全体が残光に包まれるというコンセプトに落とし込んだのです。今日、腕にしてきたモデルは、いちばん最初のイメージスケッチ(レンダリング)で考案したものです。ガラスのショーケースの中に時計全体が浮かぶスケッチを見た鈴木社長は、日本庭園の宇宙観に通じるのではないかとさらに発想を広げてくれました。私自身、それまでケースの側面までガラスを嵌め込んだモデルを見たことがなく、この設計コンセプトであれば”誰も見たことがないカッコいい時計”という鈴木社長の想いに応えられると考えたのです。

SEVEN WINDOWS

しかし、側面にガラスを嵌め込んだケースを製造するには、通常の金属ケースの数倍の精度が求められます。強度、防水性、耐久性など、時計の基本性能を実現するために製造の技術者が工夫を重ねてくれた結果です。」山本さんの言葉には、いつも技術者へのリスペクトが込められています。鈴木社長は、FIVEからSEVENへの進化を決めた場面をよく憶えているそうです。「あれは、山本さんと一緒に湯沢に向かう在来線の中でした。当時、ムーブメントの地板を自社製造した特別限定時計に挑む中で、ケース本体もさらなる高みを目指そうと決意したのです。」完成に満足しない。大量生産ではつくることのできない感動を世の中に届け続ける。それこそが、いつの時代も変わらないMINASEイズムの原点だと思います。

ファクトリーライターのK.カワカミ氏による、こだわり発見レポート「ミナセ探訪」。
時計業界を熟知した鋭い視点から、ミナセの価値に迫ります。

ファクトリー探検ライターとして、国内外のモノづくりを取材。時計、電気製品、靴、ファッション、建築、食品、菓子、伝統工藝など、こだわりの作り手のもとを訪れる。